『フィナンシャル・タイムズ』が5月19日に最初に報じたところによると、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)は今年初め、香港の投資銀行部門に所属する300人以上の従業員――ジュニア・アナリストからマネージング・ディレクターまで――に対し、中国本土への出張用としてiPhoneとiPadを一斉に配布した。複数の情報筋によれば、これらの端末では機能が制限されており、仕事用メールやオンライン会議アプリのみ利用可能となっている。同社はこの施策の理由を従業員に説明しておらず、現時点では中国本土への出張時のみ適用され、香港での業務には影響しない。ロイターも直接情報に詳しい人物の話としてこの措置を確認している。モルガン・スタンレー側はコメントを控えている。同社は香港市場における中国企業のIPOにおけるトップクラスの引受会社であり、香港の投資銀行チームは頻繁に中国本土へ顧客訪問やデューデリジェンスのため出張している。ある香港の銀行家によれば、彼自身だけでも4月中に中国の複数都市へ5回出張したという。
このような措置は極めて珍しい。通常こうしたデータセキュリティ対策は米国本社の幹部が中国へ渡航する際に限られており、すでに香港に駐在しているチーム全体に適用されることは稀だからだ。『フィナンシャル・タイムズ』の取材では、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)やJPモルガン(JPMorgan)の従業員も、自社には中国出張専用の端末に関する方針が存在しないと述べている。背景として、米中両国ともに越境データ流通を国家安全上の問題と見なす傾向が強まっている。中国では『サイバーセキュリティ法』や『個人情報保護法』(PIPL)によってデータの国内保存や越境移転に厳格な制限が設けられており、米国側でも安全保障上の懸念が増大している。モルガン・スタンレーが香港の投資銀行チーム全体に専用端末政策を導入したことは、米中間のデータ主権を巡る駆け引きに対応する多国籍金融機関の最新の取り組みと言えるだろう。